『小大下島』を写真と紀行文で紹介 | 島プロジェクト

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ReportNo-29.png小大下島
石灰業の盛衰を今に伝える島
小大下島/Kooge-jima

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▲静けさに包まれた集落内を歩く
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▲一見城の石垣にような焼成炉跡
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▲大山祇神を祀る山神社からの景色
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▲桟橋跡から続くかつての玄関口
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▲摩周湖のようにも見える水源地
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▲島の東にある石粉製造工場の跡
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▲昭和の佇まいを感じさせる路地

大下島から16:14の高速船で小大下島へ。途中海沿いに見える貯蔵タンクは、石灰石の採掘で栄えた小大下島の記憶だ。小大下島は岡村島と大下島に挟まれ、長く両島の肥草山(入会地)で無人島だったが、石灰石に価値が見いだされて江戸後期から採掘が始まった。明治中期には採掘の基礎ができ、大正期に規模が拡大され、昭和初期には機械化が進み更に生産力が上がる。戦後は復興の為に需要が増大。島の形が変わるほど採掘に拍車がかかり、1955年頃の人口は600人にも及んだ。

桟橋を上がると海沿いにベンチが点在する独特な風景。それに混じり屋号らしきものが彫られた係船柱がある。西側から回ろうと山陰の集落に入ると、空き家が多く並び怖いほど静まり返っている。海に出る手前に石灰石を焼く為の石で組まれた焼成炉(石窯)跡があり、後ろにある階段を上ると墓地があった。平地の少ない島では納得の土地利用法だ。海沿いの道に出ると岡村島が驚くほど近い。ここ小大下瀬戸に安芸灘架橋構想では架橋が示されているが、実現することは無いだろう。

石灰石の積み出し用桟橋跡を見て、湧き水が出ているという水ノ元を探すと、樹木に半分以上隠れていてよく見えなかった。集落に再び戻り神社を見つける。山神社(さんじんさん)は、鉱山業者が安全と繁栄を願い造営したとされる。山に呑まれそうな石段を上がった境内は草木に覆われていて、そこにツツジが色を添えていた。神社の成り立ち上、氏子はいないという。祭りも途絶えて何十年というところか。もう一社の荒神社では春祭りが行われているというが、確認はできなかった。

路地で塀を塞ごうとするおじいさんに出会う。手作りの門扉で庭にイノシシが入るのを防ぐのだそうだ。おじいさんは酒屋のご主人で、タヌキは昔からいたがイノシシはいなかったと言う。そのまま立ち話になり、今の人口は24、5人という現状と石灰業盛んな頃の話を伺う。時間は夕暮れ時、集落内を再び歩き出すと他にも同じような対策を施す家が見受けられた。海沿いの道から東側へ向かうと名前が刻まれた共同井戸、出張診療所を過ぎ人家の途切れる辺りで水源地が眼下に見える。

露天掘りの跡に湧水や雨水が溜まったできた水源地。水は島内の他、海底送水で岡村島も潤している。(大下島は海水淡水化装置)思っていたよりも大きく深い空間に驚く。採掘場はここだけではないから、島から運び出された石灰の総量は見当もつかない。道を進むと見えてくるレンガの煙突は、石粉を製造する工場跡の目印。坂を下った右には採掘跡を利用して行われていたクルマエビ養殖場跡。時間が止まったような島の東。使われていない岸壁と夕日を浴びる石灰岩が寂しく見えた。

埋蔵量の7割を掘った1960年代半ばから企業は徐々に撤退し、島外にある他の鉱山へと移ってゆく。採掘は島の人々が小規模で引き継ぐことになるが、1977年に最後の閉山を迎える。水が乏しい島に水源地を残して石灰業の火は消えた。戦後の全盛期には旅館や理髪店、パチンコ屋があり映画や芝居の興業も行われていたという。多くの人々が集い暮らした名残を探そうと再び小さな集落を歩くが、懐かしい雰囲気の路地はあったものの、そこにかつての活気を想像することは難しかった。

島内に点在する石灰業の跡を巡った小大下島。それらをこのまま朽ちるに任せるのは惜しい気がする。長崎県の端島(軍艦島)や岡山県の犬島に規模は及ばないものの、産業遺産であることは確かだ。活用するには維持管理や所有権等の問題があるが、清掃や草刈り程度でも見た目が変わる所も多かった。来島者が増え、静かな生活を乱されるのは嫌だという意見もあるだろうが、何もしなければこの先も島から人は減ってゆくだけ。小大下島には個性があるだけに現状が残念でならない。


文・写真/ナワタミツル
参考資料/日本の島ガイド シマダス・関前村誌

-小大下島DATA-
◎所在地/愛媛県今治市関前小大下
◎面積/0.90㎢
◎周囲/3.3km
◎宿泊施設/なし
◎お食事処/なし
◎トイレ/あり
◎駐車場/あり
◎島内交通手段/なし
※飲食物は乗船前に用意が必要


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