かつて『海駅』として栄えた、
おもてなしの島を訪ねて
下蒲刈島/Shimokamagari-jima
▲下黒島。島の原型が想像しがたい
▲みるみる積み込まれるイカ壺
▲大平山へと向かう途中に眺めた大地蔵集落
▲姫ひじき工場。塩作り体験もできる(要予約)
▲三之瀬番所跡に建つ常夜灯
▲三之瀬集落でかみかけた無人販売所
▲福島雁木に展示されている櫂伝馬
▲桜越しに眺める三之瀬港
▲夕照の大地蔵漁港
呉市川尻町から2000年1月に開通した安芸灘大橋を通り、7島7橋で構成される安芸灘とびしま海道の玄関口『下蒲刈島』へと渡った。よく通る橋、よく通る島なので、どこか見慣れた感のある風景ではあるが、島をゆっくりと巡るのは今回が初めてだ。
下蒲刈島には『三之瀬・下島・大地蔵』の3つの集落があり、いつもなら安芸灘大橋を渡って直進し、蒲刈大橋のある三之瀬集落へと車を進める所だが、この日は下島集落から大地蔵集落へと島を左回りに巡ることにした。
雨のち晴れという予報通り、どんよりとした瀬戸内海を眺めながら沿岸部をゆっくりと車を走らす。尾ノ鼻岬を過ぎると『上黒島・下黒島』が視界に入ってくる。いまでこそ無人島だが、かつては有人島だった両島。砕石や一般・産廃処分場として変わり果てたその姿を見たら、当時の島民はどう思うだろう。この地に縁のない私たちでさえ、あまりの光景にしばらく言葉を失ったほどだ。
そこから少し行くと『大地蔵漁港』がある。漁船は出払っていたが、初めて目にする山積みされた漁具に興味を惹かれた。
竹と糸で作られた円筒形の籠の中にはツゲの枝が据えられ、直径10cm程度だろうか? 入り口の様な穴がある。聞くと、伝統的な"イカ漁(イカ籠漁)"に使う仕掛けで『イカ壺』というそうだ。(後に調べてみると、地域によっては『イカ籠』『イカ玉』『イカ巣』とも呼ばれている。)
ツゲを海藻に見立て、産卵場所を探す甲イカを壺の中に誘い込む。最盛期には1壺で20匹以上も入っていたようだが、近年は2、3匹程度。漁獲量は約10分の1に落ち込んだと、積み荷約のおじさんが当時に想いを馳せる様な表情で話してくれた。
仕掛けは一連50壺ほどを1度に積み、沖合の海底に沈ませる。本来なら3月末には仕掛け終えているはずが、折からの悪天候で延び延びになっていたようだ。お陰で思わぬ場面に出会えて運が良い。そう思っていると太陽も顔を覗かした。
最後の仕掛けを積みに帰港した漁船に、みるみる積み込まれるイカ壺。すべて積み終えた後に「乗って行くか?」と声をかけていただいたが、この後の撮影を考えて惜しみながら船を見送ることにした。こういうチャンスはそうそう無いだけに、本当に残念だ。
大地蔵の集落の中心部に入ると大きな家々に少々驚く。一軒一軒が豪華でとにかく広い。海岸線には『松風園』なる日本庭園があり、綺麗に整備された庭園とそこから見える瀬戸内海をしばし独占し、大平山公園へと向かった。大平山は海抜275m、頂上に砲台跡地もある。集落では見頃を向かえていた桜もここではまだ蕾だが、1週間後の姿を想像すると、また来てみたいと思わせるものがあった。
そこからは安芸灘大橋を眺めながら大回りに下山し『梶ヶ浜海水浴場』、そして『姫ひじき工場』を経由して三之瀬集落へと向かった。
もともと古くから瀬戸内海航路の重要拠点として栄えた下蒲刈島だが、継船制度が確立し、ここ三之瀬が公式の『海駅』として指定されてからは、本陣や番所、御茶屋などが設けられてさらに発展する。
広島藩(浅野氏)は、西国大名の参勤交代・琉球使節団・朝鮮通信使などの寄港地となるここ三之瀬での接待にかなりの力を入れていたようで、海路の接待拠点として、本陣や番所・御茶屋などの改修・整備も怠らず「安芸蒲刈御馳走一番」と評される程のおもてなしをしていたようだ。
そんな事前情報を思い起こしながら集落を歩く。整備された石畳の道沿いには、松濤園や蘭島閣美術館といった観光施設が建ち並ぶ。平成以降の建築物も多く町並みは綺麗。ただ当時の面影を感じる遺構が『福島雁木』とも呼ばる三之瀬港の長雁木と、唯一現存する侍屋敷のみだったのが少々残念。ただ、集落の内部入れば、島らしい生活感あふれる路地にであう事もできた。そのまま北に足を進めると『弘願寺』というお寺があり、その本堂の裏手に見事な桜園がある。まだ八部咲きといった感じだったが、美しい光景に行き交う車も、知らず知らず速度を落としているようだった。集落をひと通りまわったあと、陽が落ちきる前に大地蔵集落まで戻り、夕照の大地蔵漁港を思い思いに撮影。最後は夜の三之瀬集落を少し散策して島を後にした。
歴史ある島にしては、歴史を感じる遺構や島らしい町並みが少ないのは、やはり残念な気がする。ただ、島へのアクセスがしやすく、島内の交通手段や観光施設も充実しているので、お手軽な島旅を満喫するにはちょうど良いオススメの島だ。島の要所要所には公園や庭園が整備されており、公共トイレもきれいなので、三之瀬にあるレンタサイクルを利用して、島内をゆっくりと一周するのも良いのではないだろうか。
文・写真/中川智晴
参考資料/日本の島ガイド シマダス(財)、他
-下蒲刈島DATA-
◎所在地/広島県呉市蒲刈町
◎面積/7.86k㎡
◎宿泊施設/多数あり
◎お食事処/多数あり
◎公衆トイレ/各集落に公衆トイレ完備
◎駐車場/あり
・無料(下蒲刈市民センター)
◎島内交通手段/あり
・レンタサイクル (海駅 三之関)
・島内周回バス
◎備考/安芸灘大橋(有料)
・片道>普通 700円/軽 550円
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