大崎下島・大長
大正、昭和いきづく柑橘王国
大崎下島・大長/Ohsakishimo-jima・Ouchou
▲柑橘王国らしいオブジェ
▲東風崎神社。春、桜が参道を彩る
▲消え行く北堀の長雁木
▲出作(渡り作)を支えた農船
▲大長ブランドを表すロゴマーク
▲斜面を埋め尽くす柑橘畑
▲懐かしい看板。昭和を思い出す
▲夕日が差し込んできた北堀
大崎下島には『御手洗(みたらい)』『大長(おおちょう)』『久比(くび)』『沖友』『大浜』『立花』の6つの集落があり、収穫時には島の斜面が色付いたみかんで埋め尽くされることから"黄金の島"とも形容された。
今回訪れたのはそんな大崎下島の海の玄関口として栄えた大長。以前、御手洗を訪れた時は大崎上島からフェリーに乗り、大長地区北側にある『小長(おちょう)港』に降り立ったが、今回は『安芸灘とびしま海道』を通り大長地区にあるもうひとつの港、『大長港』までやって来た。
昭和40〜50年代の雰囲気を醸し出す大長港。白いビルの壁面にある色あせたチャンネル文字、そのビルの1階にある待合所のあちこちにある看板や広告、それらすべてが昭和を感じさせる。今回の楽しみのひとつがこの地区に残る看板や広告だったので、いきなり宝の山を見付けた感じがした。
そんな大長港をでて正面に位置するのは『東風崎(こちざき)神社』。道路沿いにある石造りの鳥居をくぐると急傾斜の階段が本殿まで続く。きつい参道に息を切らしながらも、途中途中に見える瀬戸の風景や大長の町並みが心を軽くしてくれる。
東風崎神社は1699年に拝殿が建立され、その後、同地区にある宇津神社本殿の再建時に、旧殿をこの神社の本殿にしたという全国的にもめずらしいリサイクル神社という史実をもつ。また桜の名所としても有名で、春には約100本のソメイヨシノが参道を彩るそうだ。もし訪れたのが春だったら、階段をのぼる足取りはもっと軽かったことだろう。そんなことを思いながら参道から見えた大長の町並みへと足を進めた。
大長といえば、みかんやレモンをはじめとした柑橘類の栽培で有名。なかでも温州みかんの出荷量は広島県でトップを誇り、『大長みかん』として一大ブランドを築いている。もともとはカタチ桃という品種の桃栽培が盛んで最盛期には広島県の9割以上を占めていたそうだが、明治36年に『青江早生』を導入したことをきっかけに早生温州みかんの一大産地となり現在に至っている。また大長は、国産レモン発祥の地としても知られており、百年以上の実績をもつ『大長レモン』は、大長みかんと並んでこの柑橘王国を支える2大ブランドのひとつだ。
大長を歩くとまず目に留まるのが、集落を囲む山肌に造られた段々畑。土地の少ない島ならではの問題を解決するために、平均傾斜30度の斜面を開墾しゲシと呼ばれる石積で造られた段々畑はまさに圧巻のひとこと。「耕して天に至る」と言われたその段々畑をみながら、長雁木の残る『北堀』を一周し『JA広島ゆたかの選果場』を少し見学して『南堀』へと向かった。選果場の前には『みかんあいらんど』という産直販売所があり、収穫時期の休日だけあって多くの人で賑わっていた。
北堀と南堀には、大長の柑橘農家を支えた『農船』といわれる五トン級の木造船が係留されていた。農船は収穫物を運搬するための格納庫が完備されており、『出作(渡り作)』といって、さらなる農地確保に近隣の島々へ渡って栽培を行う農家の海の脚として活躍した。柑橘栽培が最盛期を迎えた昭和30年代には400艘を超えていたそうだが、いまではめっきり数を減らしたようだ。
南堀から集落内部へ入るとすぐに『宇津神社」がある。詳しい創建年代は不詳らしいが、残された棟札から1318年(文保2)の存在が確認されており、境内には樹齢1200年とも1600年ともいわれる『ホルトの木』がある。そこから『観音堂』『南谷長屋門通り』に行き、『温州みかんの保存樹』『耳塚』をまわって『八王子社(旧宇津神社跡地)』で遅めの昼食をとった。しばしの休憩の後、迷路といわれる集落内部の路地を通って『本徳寺』に向かったが、他の島に比べるとわかり易く、大正から昭和初期に建てられたであろう端正な家々が最盛期の勢いを物語っていた。
本徳寺からは新開道という路地を通って南堀通りにでて、『馬見の荒神社』や『大師堂』、そして全国初のみかん缶詰工場の『加島缶詰工場跡地』へと足を延ばした。途中途中で幾人かの人に大長についての面白い逸話や歴史を教えてもらい、その都度自慢のみかんやレモンをいただいた。
温暖な気候と水はけの良い土地、海からの照り返しなど、柑橘類を栽培するための好条件を見抜き、段々畑や出作といった先人の知恵と努力。そして「より美味しいモノを作りたい」という現代の柑橘農家の人々の熱意が、いまの大長ブランドを育んでいるのだと、大長の風景と出会った人々からそう感じた。
文・写真/中川智晴
参考資料/日本の島ガイド シマダス(財)、他
-大崎下島 DATA-
◎所在地/広島県呉市豊町久比
◎面積/17.82k㎡
◎周囲/26km
◎宿・お食事処・公衆トイレ/あり
◎島内交通手段/あり
・バス ・レンタサイクル
※大長港隣の『マルサン百貨店』に、
レンタサイクルあり
◎備考/大長地区周辺では、
トイレと駐車場は大長港にあり
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