百島
架橋された島々に囲まれた離島
百島/Momo-shima
▲海辺から入る通りは懐かしい雰囲気
▲農地が広がる本村地区
▲歩くのが気持良い海沿いの道
▲波打ち際の空き家
▲高台から望む泊の集落。正面は田島
▲バスが島の南北を繋いでいる
▲耕作放棄によってできた緑の谷
▲昭和の面影が残る閉鎖された映画館
▲空を映す穏やかな海
百島へは尾道糸崎港から向島経由で行く方法と、常石港からの2航路があるが、車を渡す為に常石港を選んだ。常石港の前には橋で繋がる田島と横島、目指す百島はほぼ横に見える。フェリーびんごに乗り、福田港までは約30分の船旅。大きな造船所を右に眺めながら、波穏やかな海を進む。島の玄関福田港から、見上げる茶臼山は因島村上氏一族の城跡だという。松永湾の出入りを監視していたのだろうか。遺跡もなく登れない状態だが、島内の西林寺に村上氏の墓が残っている。
八幡神社で毎年1月11日に行われるお弓神事は、(2011年10月尾道市無形民俗文化財指定)県内最大射手を誇る。室町幕府6代将軍義教を赤松満祐が暗殺、(嘉吉の乱)赤松一族の7人が百島に逃れ、討伐軍の来襲に備え弓の稽古に励んだことを起源とする。現在は厄よけと無病息災を祈る神事。島に赤松姓が多いということから、関係性の深さを伺い知る事ができる。島に残る伝承とそれを裏付けるもの。瀬戸内に弓神事は多く伝わるが、百島のものには特別なものを感じる。
港から歩き出して、まず目に入るのは菅原道真の伝承が残る袖乃天満宮。海を背に構える境内。昔はここまでが海だったのかと想像する。海沿いの道から本村の集落へ向った。元は入浜塩田跡地なのか、干拓地なのか。本村の広い平地は畑となり人家がまばらに建っている。どこからか聞こえる草刈りの音。密な感じがしないこの地区は、歩き方が思い浮かばず、学校の校舎を横目に、海へ出て泊港を目指すことにする。静かな海沿いの道を歩いていると、正午を告げるサイレンが鳴った。
集落の入口に、とまりカラオケ道場。手作り感ある外観に興味をそそられる。道路脇に建つ家並みは海から近く、それを隔てるのは腰掛けられるほど低い防潮堤だけ。昔からこの場所が波穏やかだったことをその風景が教えていた。海と共に暮らす。そんな言葉が似合うなと思いながら、午後の陽射しに眩しい道を歩いた。真新しい設備が目立つ泊港には大小様々な船が並ぶ。しばらく歩くと防波堤改築記念碑があり納得。白く浮いた防波堤が風景に馴染む頃、また訪れてみたい。
港を過ぎても家並みは、驚くほど海に近い。眺めていて幸せな気持ちになるのは何故だろう。それはきっと、自然に対する人の構えの低さが、共存を表しているからだろうと思った。島の南端にあるダンゴ岩を見て、集落を見下ろせる場所まで、坂を登ってみることにする。穏やかな海沿いに、密集した家々の甍が広がる風景は心に響くのだろう。いつ見ても心地よい気分になる。路地に入ると、側溝のフタが並ぶ小道が続く。たまたまなのか、山が近い地形によるものか気になった。
街の密度と違うのは、画一的でない家々が路地それぞれに表情をつけていること。板張りの塀、土壁、白壁、石垣。触れてみたくなるのは、どれも優しい素材であるからだろう。発見や出会いの場となる路地歩きは楽しい。先の行程を考え、今度は山道で本村へ帰ることに。海から離れて目に入ったのが、自治体運営される百島バス(マイクロバス)の停留所。泊港ー福田港間で運行されている(日祝祭日運休)。バス停には明神下とあり、厳島明神社(泊神社)を探し参拝した。
低い峠を越えると本村。分かれ道を右に進み、山の中を歩いて少し遠回り。放棄された農地や、古い墓石を見て集落に入った。よしずを渡した商店の軒先を抜けて通りに出ると、閉ざされた映画館があった。島の方に伺うと、映画がある時は島内に案内放送が流れたという。ぞろぞろと集まる人達の姿を想像し、幸せな気持ちになった。福田港に戻り、海沿いの道で島を半時計周りに歩くことに。一階が店舗で二階は住居という、懐かしい構えの商店が目に入り、思わず立ち止まる。
水路に囲まれた広大な土地の半分に栽培漁業センター(水産研究所)。海沿いの道をゆくと旧百島造船所があり、いちご栽培を通して島の活性化に力を入れている百島農園が続く。それを過ぎると砂浜が広がり、百島ブルーアイランドという砂浜に囲まれた別荘地。軍殿山の裾を回るように、眺めの良い海辺の散歩道が続いている。既に夕刻。沖に無人島の加島、遠く向島、因島が見える砂浜で夕陽を撮り、来た道を引き返す。歩き疲れた身体に、凪いだ海が目にやさしく映った。
2005年に閉鎖された診療所に医師を招き、2011年4月に再開。旧中学校校舎を利用した創作活動の拠点づくりの推進。メガソーラーの誘致など、百島の話題は誌面を賑わせた。また、移住者の受け入れに積極的に活動している瀬戸の島いちごグループの存在も頼もしい。架橋された島々に囲まれた離島百島。訪れる者には魅力的なその環境も、住み続けてゆく現実問題として危機感を強くしたはずで、それが近年の発信力に繋がったのではないだろうか。百島の今後に注目したい。
文・写真/ナワタミツル
参考資料/日本の島ガイド シマダス
-百島 DATA-
◎所在地/広島県尾道市
◎面積/3.08k㎡
◎周囲/11.9km
◎お店情報/食料品雑貨屋数店あり
◎宿泊施設/あり(要予約)
◎公衆トイレ/あり
◎駐車場/あり
◎島内交通手段/あり
・レンタサイクル(福田港)
・バス(1日数便)
※福田港から本村・診療所前を経由して泊港へ
◎備考/各所に自販機(飲料用)あり
※食物は乗船前に用意するのが無難
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