似島
安芸の小富士が抱く島
似島/Nino-shima
▲主稜線からの眺め。遠く厳島が見える
▲島内あちこちで見られたミモザ
▲稜線から下高山を見る。中央右が似島港
▲安芸小富士山頂からの展望
▲平和の散歩道。海沿いの景色が気持良い
▲たこ壷の山
▲かわいらしい手作り標語看板
▲路地歩きは不思議と懐かしい感じがする
▲路地は譲り合い、そして静かに歩く
今回は近場の島ということで宇品港集合。待ち合わせの旅客ターミナル目前に似島は見える。島の目印とも言える安芸小富士は標高278mの山。海上に浮かぶ姿が富士山のようで安芸の小富士、似ていることから似島と呼ばれたとも伝わる。かつてこの山が一番美しく見えたであろう場所に富士見町(広島市中区)という町名が残っている。町名の元となった富士見橋が存在した頃から時が経ち、湾内埋め立てが進んだ現在では、山頂部がビルの間から辛うじて見えるくらいとなった。
広島宇品港からフェリーで20分。似島は安芸小富士や下高山への登山客、豊富な海の幸を狙う釣り客、サイクリング客。キャンプに貝掘り、夏場は海水浴と自然に集い季節を楽しむことに不自由しない島。フェリーの客室には様々な思の人たちが乗り合わせていることだろう。徐々に離れてゆく陸地を眺める。船上の人となり、これから向う島を思う。海を渡る間に過ごす時間により、心が一層穏やかになってゆくような気がする。船窓から砂利船が大きく見える。似島港着岸が近い。
桟橋では猫のお出迎え。次々と寄ってくる人たちの対応には慣れきった様子。相手にしているのは、人なのか猫なのか。微笑ましい光景だった。出迎えや乗下船客の賑わいも静まる頃、集落をまわる二人と別れ、一人安芸小富士の山頂を目指す為、路地に入る。港から登山口へは集落の中を縫って進むことになる。路地の狭さに不安になるが、立派なつくりの標識通りに進めば迷う事はない。稜線に出るまでは竹やぶの薄暗さ、急登、傷んだ道も我慢。海を眺めることだけを思って登る。
主稜線に出れば、途中花崗岩砂礫で滑りやすい場所があるものの、道はおおむね良好。眺望の良い場所が何カ所もあり、少し歩いては振り返りカメラを取り出して撮る。青空の下、春の陽射しを浴びて輝くミモザの花が多く見られた。山頂からは東西南北すべてを見渡すことができる。住み慣れた広島市街を見下ろす景色は、いつもと違った印象で爽快。穏やかな海に浮かんだ、カキ筏の間に延びる航跡も美しく目に映る。眺望をひと通り撮ったあと、二等三角点の脇で遅めの昼食。
下山は稜線を戻り、似島学園コースの分岐をやり過ごし、展望台コースで島の東側にある大黄(だいおう)地区を目指す。道はなだらかで歩きやすく、主稜線まで登るならこのコースがおすすめ。展望台を経て少年自然の家の敷地を抜ければ海へ出る。この東側の海沿いには戦時中、軍事施設が広く存在した。似島学園は戦前から陸軍検疫所や弾薬庫があった場所。少年自然の家は第二検疫所のあった場所で、被爆後は臨時の病院となり、海を渡り多くの被爆者が搬送されてきたという。
似島小学校、似島中学校の建つ敷地も同じで、東側の広い平坦な土地は、全て軍事施設のあった場所ということになる。島内には他にも軍事施設があったという場所があり、軍との関係が深い島だったことが分かる。似島中学校の先にある慰霊碑は、搬送後手当の甲斐なく亡くなられた方々のためのもの。似島学園から慰霊碑までをつなぐ道を辿ることで、戦争について考える。そんな思いを込め、平和の散歩路と名付けたそうだ。海を眺めながら、歴史に思いを馳せるのも良いだろう。
大黄港の防波堤のあちこちに、たこ壷が置かれていた。それは認識している素焼きのものではなく合成樹脂製。昔ガラス製だったウキも現在では合成樹脂製が当たり前なのだから当然の成り行きか。木製漁船がそれを用いた複合素材、天然繊維の漁網は合成繊維に置き換わっているが、便利で丈夫になったその姿に趣はなかなか感じられない。島の漁業はカキ養殖、底引き・刺し網漁に一本釣り、冬場はナマコ漁が行われていて、ナマコは安芸の小富士から”こふじナマコ”と呼ばれている。
細い路地は島外から訪れる者にとって迷路だ。人ひとりがやっと通れるような路地は、譲り合いの心遣いが不可欠。通学路沿いのいたるところに、手作りの標語看板が掛けられていた。それぞれがクジラやタコ、サカナと海の生物のシルエットになっていてかわいらしい。その他に『この辺りには猫が多いので・・・』とドライバーに猫への注意を促す看板もあり、気持がなごむ。バスもタクシーも走らず、信号の無いこの島の交通ルールは、こういった島民達の思いやりで成り立っているのだろう。
似島は広島市内からも近く、日帰りで遊べる島。身体を動かしたい人も、そうでない人も、季節毎に楽しめることが見つかる島ではないかと感じた。島の東と西にそれぞれ桟橋があるため、行きと帰りで港を分け、島を巡る計画を立てるのも面白いと思う。似島では多様な楽しみ方が提案されているが、近年では残念ながら、登山客のマナーが指摘されている。登山に限らず、どんな楽しみ方であれ、お邪魔しているという気持ちを持ち合わせ、謙虚な気持ちで島の自然を満喫したい。
文・写真/ナワタミツル
参考資料/ガイドマップ in にのしま、他
-似島DATA-
◎所在地/広島県広島市南区
◎面積/3.87k㎡
◎宿泊施設/あり
◎お食事処/あり
◎公衆トイレ/あり
・似島港・少年自然の家近辺
◎駐車場/なし
◎島内交通手段/なし
◎備考/商店が多数あるので、軽飲食に困ることはない。自販機も多数あり。
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