岩城島
造船の槌音響く、青いレモンの島
岩城島/Iwagi-shima
▲しまなみ海道が通る生口島は目の前
▲雁木はそのまま路地に繋がっている
▲古い家並みが広がる神社下を望む
▲神社の境内は樹木が視界を遮り残念
▲たばこの乾燥小屋が農業の変遷を伝える
▲閉ざされた商店も惹かれる風景のひとつ
▲海沿いの県道を駆け抜けるサイクリスト
▲古びた農船。波止の外手前が赤穂根島
▲展望台から見る小漕港に生口島と因島
岩城島を訪れるのは約6年ぶり2度目。天候に恵まれなかったことが悔やまれ、再訪が常に頭にあった島。前回はしまなみ海道で生口島から、今回は因島の土生港から渡ることにした。フェリーは生名島の北端を回り、長江港まで約13分。生憎の空模様に風。時折混じる雨に先行き不安な渡海となった。長江港に着き、まずは島の北にある小漕港へ向う。小漕(おこぎ)という名の如く、対岸となる生口島は近くに見える。洲江港から来るフェリーを撮ろうと待っていると、雨が落ちてきた。
両島を5分で繋ぐフェリーからは、桜の名所積善山(標高370m)で行われている『いわぎ桜まつり』目当ての観光客が次々と下船する。3,000本植えられたという桜。観光客の群れは近くで待つ送迎のマイクロバスに次々と吸い込まれていった。賑わいを見送り岩城港まで来ると雨は本降り。雨雲をやり過ごす間に早めの昼食を取ることにし、安くて美味しかったという記憶の残る港に隣接した店へ。思い出が甦る店内で、岩城島のブランド豚『レモンポーク』を使った一品を選ぶ。
雨も上がり、港の東側から集落を回る事にする。気がかりだったのは、前回訪れた時に見かけた農船。雁木に囲まれた港の一角に係留されていたが、そこに姿を見つけることはできなかった。路地を抜けて通り(下小路)に出ると、立派な構えの家が目に入る。同じ通りには松山藩主が参勤交代時に使う本陣となった、塩田や回船業で財を成した三浦邸が岩城郷土資料館として残っている。古い造りの家が多く路地も狭いこの辺りが、かつての中心部だろうか。落ち着いた雰囲気が心地良い。
路地では軒下に櫓を保管している家を数軒見かける。巡っている内に県道(上小路)、岩城八幡神社の石段下に出た。城跡という神社の境内に展望を期待したが、海は木々の間からしか見えない。秋祭りでは、太鼓台とも呼ばれるだんじりが東・西地区から出る。東隣の海原(かいばら)は海原獅子、高原の奴と神輿、浦安の舞と地区毎に担う神事があるという。なぜそうなったのか興味深い。神社の東側は小さな入江が整備中、集落は広々とした感じで所々に昔の風景が残っていた。
神社の石段下まで戻り、通りを右に折れて山寄せの坂道へ入る。高さを増すと海が見えてきた。昔ながらの瓦屋根と所々頭を出す鉄筋の建物。時が止まったような部分と、変わってゆく部分が混在する風景を眺める。道を進むと長法寺、大平寺という綺麗な寺へ続く路地に出た。積善山の裾野にあたるのか、道は坂になる。西へ向けて路地を進んでゆくと、たばこの乾燥小屋が目に入る。農業の一時期を支えた葉たばこの生産。その証しをできることならば、残しておいてもらいたい。
空は晴れては曇り、雨が落ちてと安定しない。桜の明るさに誘われるようにして着いたのは宝蔵寺。桜が満開の境内で、珍しい九州型板碑というものを見学し、遠く九州との結びつきを知る。寺正面の階段を下りると桟橋へ続く県道。古い新聞配達所があり、違う道を選んではそこへ戻るということを繰り返す。役場の周辺は店舗や施設が集中する現在の中心地。飲食店と宿の多さ、区画がはっきりしているのが他の離島とは異なるところ。港の桟橋を境として、今度は西側の集落へ。
地名は西へ向け新地、谷、浜と並び、高齢者福祉センター・保険センターなど新しい名前の施設は、土地の開けたこちら側にある。新地地区は普通の住宅地のような家並みで、東側とは違う島かと思うほどの景色が続く。浜地区は漁民が開いた集落が始まりという。海沿いの県道、新し目の波止に繋がれた漁船が東側より多いが、漁港らしさは感じられない。漁協は隣の生名島と合同。刺し網・一本釣り漁の他に養殖が盛んで、豊かな海の象徴であるアマモの保全活動に取り組んでいる。
境内に県指定天然記念物の舟形ウバメガシがある祥雲寺。京都の金閣・銀閣と同時代の唐様建築という観音堂は、小さくとも威厳のある佇まい。その裏手から尾根に沿って続く墓地の桜が見事だった。日没にはまだ間があるので、引き返して岩城港の東にある海原地区へ。対岸の赤穂根島(あかほねじま)との間は僅か。岩城から畑作に渡る島で、かつては島を『むかいじ』と呼んでいたそうだ。波止に船は少なく、静かな集落を一回り。夕焼けを期待し、積善山展望台へ向うことにした。
先客が陣取る展望台には、外国語も飛び交っていた。恐らく造船関係の会社で働く人達だろう。作業着にそれぞれカメラを持ち、桜と瀬戸内の風景を収めようと熱心にシャッターを切っていた。展望台から見渡せる360度の中に、島の経済を支える造船業の工場も見え、農・漁業と工業が共存する島であると分かる。島で味わう山と海の幸に、春と秋の祭り。温泉施設があり、レジャーの津波(つば)島へと繋がる岩城。ここは訪れる目的に合せ、違った魅力を見せる島なのかもしれない。
文・写真/ナワタミツル
参考資料/日本の島ガイド シマダス
-岩城島 DATA-
◎所在地/愛媛県越智郡上島町
◎面積/8.93k㎡
◎周囲/30.2km
◎宿泊施設/あり
◎お食事処/あり
◎公衆トイレ/多数あり
◎駐車場/あり
◎島内交通手段/あり
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